会報誌(DDKだより)

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2023年05月発行 第348号 DDKだより

金融・経営相談:納税者権利憲章の制定は世界の潮流~なぜ納税者権利憲章は必要なのか

Q.先進諸外国の中で、納税者権利憲章を制定していないのは、日本だけと聞きました。なぜ、世界では納税者権利憲章の制定が進んでいるのでしょうか。

今月の相談員
税理士 平石 共子

A.1970年代後半以降、欧米各国では次々と納税者権利憲章を制定し、あるいは納税者権利保護法制を整備してきています。フランスでは75年に「税務調査における憲章」を公表、ドイツでは77年に、租税基本法改正により「手続き基本権」が保障されました。続いて、カナダ、イギリス、ニュージーランド、アメリカなどで、納税者の権利宣言、納税者憲章、納税者権利章典など国により名称は異なりますが、こうした動きはアジア、及びアフリカ諸国など世界中に及んでいます。まさに世界の潮流なのです。自由主義・市場経済を基本とする主要諸国で、納税者権利憲章の制定や納税者権利保護法制を整備していないのはわが国だけです。

 「納税者の保護」をはかろうとする場合には、大きく「古典的なアプローチ」と「現代的なアプローチ」があります。(図1)
(1)古典的なアプローチとは
 納税者への脅しを強める「ハード・アプローチ」です。「納税の義務」を強調して、いわば納税者を脅して税金を払わせようとするやり方です。「課税庁が主役」のアプローチといえます。まさに日本です。
(2)現代的なアプローチとは
 納税者サービスの徹底を基本とした「ソフト・アプローチ」です。国民・納税者に「自発的納税協力」を求めるために、「職員の服務ルールの改善やカスタマー・サービスの質的管理基準の強化を含む納税者サービスの徹底」と「大胆な手続き的権利の保障のしくみを法制化」、双方の面で改革を進めることにより、抜本的な「納税者の保護」をはかる手法です。いわば「国民・納税者が主役」と言えます。アメリカやイギリスで採用し、納税者権利憲章を制定しています。
 サービス主導のソフト・アプローチを選択する理由は次の点です。
[1]古典的な手法は時代遅れ
[2]コストパフォーマンスがよい
[3]税務調査や附帯税の対象となるかならないかで不公平が生じる

 納税者権利憲章の制定は、税務行政においてこれまでの「課税庁が主役」から「国民・納税者が主役で課税庁のお客様」という流れをつくることです。



写真1