会報誌(DDKだより)

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2023年04月発行 第347号 DDKだより

巻頭:天の時 地の利 人の和


青木 正

 WBC開幕から巻き起こった栗山監督率いる侍ジャパン旋風は、日本のみならず、対戦国選手に加え、選手の母国でのTV観戦視聴者に至るまで大いなる共感を与えたようだ。ウクライナ戦争、核での恫喝、ミサイル発射実験など、平和の時代から一変して戦乱の時代に逆戻りしてしまうのではないかというやりきれない閉塞感の中で、人々の心の不安を一時的にも緩和し、民族・国家を超えて、心温まる交流の場を共有できたのは素晴らしかった。
 栗山監督発案と言われている’たっちゃんTシャツ’を選手が着て、日系人メジャーリーガーのヌートバー選手を迎え、チームにいち早く溶け込ませたのがとても印象に残る。ヌートバー選手については、有能な日本人外野手が多数いるのに、なぜ、あえて米国から呼ぶの??との反対意見もあったが、栗山監督は ’これからの野球界発展のためにはグローバル化が必要なんです’ と答えている。彼のおちゃめな性格を十分に引き出し、チームメイトと融和し、多彩な打撃とアグレッシブな守備でみごと期待に応える素晴らしい活躍、出塁した時の’ペッパーミル’は侍ジャパン全選手の定番パフォーマンスになった。
 大谷選手をドラフト1位で獲得した時、名だたる野球評論家の反対も気にせず ‘二刀流’ に理解を示したのも当時日本ハム栗山監督である。従来の野球界常識を打ち破り、才能ある若者の無限なる可能性を引き出して、厳しく接するも本人の夢を尊重、目標を高く持たせて、歴史に名を残す世界屈指の野球選手として大成させたことは記憶に新しい。
 国立大卒でヤクルトにテスト入団、現役期間は7年と短く、残念ながら輝かしい成績は残せず持病に苦しんでの引退。然るにTV野球解説者として十分に研鑽を積み、故稲盛和夫氏の著書や四書五経に学び、大学教授として教鞭を取り、日本ハム監督就任後は名将として大きく花開いた異色の野球人。
 孟子の言葉 天の時より、地の利より、人の和 を第一に考える栗山監督の野球哲学は、国際親善を掲げるWBC基本理念にも相通ずるものがある。国際スポーツは決して単なるナショナリズムのぶつかり合いであってはならない。試合終了後に対戦相手の健闘をたたえてリスペクトする大谷選手、デッドボールを与えてしまった相手選手を後日訪問した佐々木選手の国際交流などは実に清々しく、これぞスポーツマン精神の神髄、まさに ‘栗山イズム’ が侍ジャパンに浸透している証として深く感銘を受けた。