会報誌(DDKだより)

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2022年09月発行 第340号 DDKだより

金融・経営相談:なぜ押印廃止なのか、中小企業の押印廃止の実務対応のポイントとは

Q.さまざまな領域で押印の廃止が進んでいますが、なぜ押印廃止が行われるのでしょうか。印鑑がないことでこの書類が本物なのか心配になることがあります。押印廃止に対応するポイントを教えてください。

今月の相談員
税理士 平石 共子

A.押印見直しは1997年頃に始まり、新型コロナウイルス感染拡大、テレワークの普及によって加速したといえます。
 電子化の推進、テレワークの普及、ペーパーレスの拡大、生産性の向上などの観点からデジタルガバメント、つまりデジタル技術を活用して行政の在り方の変革を目指しているようです。押印廃止はあくまでも手段で、合理化による経済成長が目的だというのです。
 その結果、行政手続及び民民間のさまざまな領域で進められています。
 税務関係書類については、2021(令和3)年4月1日よりほぼすべての申告書、申請書、届出書などの税務提出書類が押印廃止です。引き続き押印が必要なのは、(1)担保提供書類等、(2)遺産分割協議書等、(3)開示請求等の委任状、(4)振替依頼書等に限られます。
 国民や事業者が法令に基づき国・地方公共団体等に対して行う行政手続きは14,992の手続きがあり、このうち印鑑証明が必要なものや登記印、登録印が求められる83手続きは存続し、そのほかはすべて押印廃止となっています。
 民間レベルでは、保険契約や銀行口座開設など書面ではなく電子化によって押印廃止が進められています。
 民事訴訟法に「私文書は、本人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推測する」という規定があるように、押印が万全ではないわけです。しかし、押印が長きにわたり真正性の確保をしてきたことも事実であり廃止となった今、押印に代わる手段を考える必要が出てきました。
 実務的な対応としては、(1)各種書類から「印」のしるしがなくなったとしても氏名の横に押印を続けること。押印廃止といっても押印禁止ではないので、任意に押すことは問題ありません。(2)署名に切り替えること。これは記名やゴム印ではなく本人の直筆である必要があります。(3)記名、押印なしであっても、行政手続きについては必ず控えを作成して、受付印をもらうこと。あるいは、×年×月×日に郵送にて提出と欄外に朱書きして保存することが重要です。
 民民間の電子取引については電子帳簿保存法で電子保存が義務付けられていますが、当面は、紙による保存は必須です。