会報誌(DDKだより)

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2022年06月発行 第337号 DDKだより

巻頭:独裁から民主主義へ


齋藤 正広

 ロシアによるウクライナ侵攻から3か月が経過しました。第2次世界大戦の反省を踏まえ、世界の平和を維持する目的で設立された国連ですが、その常任理事国ロシアの蛮行に国連は有効に機能できていません。プーチン大統領は短期間で終結できると高をくくっていたようですが、西側諸国の支援を得たウクライナの猛反撃に苦戦を強いられ、長期戦となることが予想されています。
 日々罪のない市民が犠牲者となっている悲しいニュースを目にするたび、無力感にうちひしがれます。経済制裁が効いてくるには時間がかかります。プーチン政権そのものが崩壊しない限り戦争は終わらないのではないか?そんなことを考えていた時、アメリカの政治学者である故ジーン・シャープ氏の著書「独裁体制から民主主義へ」という本に出会いました。この本は東欧諸国の改革運動に大きな影響を与えた「オトポール!」、「アラブの春」やウォールストリート占拠など、多くの抵抗運動の渦中で教科書として読まれたそうです。以下、概要をご紹介しましょう。
 政治的な力の源はすべて、民衆側が政権を受け入れ、従順することによっていて、社会の無数の人々や多機関の協力によって成り立っている。反対に、民衆や機関が独裁者に協力しなくなればどんな統治者であっても依存している力の源が枯れていき、弱体化し、ついには消滅する。独裁政権はたいてい不死身に見え、民主化勢力は非常に弱く無能で、無力に見える。しかし、独裁政権にも固有の弱みがあり、民主化勢力がそのアキレス腱を攻撃すれば、崩壊させることは可能だ。その「攻撃」方法は「非暴力」行動だ。暴力を使うことは、権力者が優位性を保つ土俵にわざわざ自分から乗って、自らを不利にする行為であり現実的ではない。
 書の中では、戦略や計画の必要性とともに、抗議行動、ストライキ、非服従、ボイコットなど198の具体的方法を紹介しています。そして、独裁体制崩壊後の憲法の重要性も述べています。ロシアもミャンマーも本来権力を抑制するための憲法が、国民を抑圧するために利用されていることの意味を私たちは重く受け止めなければなりません。
 博士は最後にこう結んでいます。 「自由はただではない」は真実である。どんなに渇望される自由でも、それを外部の力が抑圧された人々に与えてくれることはない。その自由は自らの手でどう勝ち取るのかを学ばねば手に入らないだろう。
 「非暴力」は「無抵抗」でも「無力」でもありません。今、まさに、自由を守るための知恵と勇気が求められていると言えるのではないでしょうか。