会報誌(DDKだより)

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2018年10月発行 第294号 DDKだより

人事労務相談:働き方改革と中小企業

Q.6月に成立した「働き方改革関連法」とはどんな内容でしょうか。また、中小企業にはどのような影響がありますか。

今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁

A.「働き方改革関連法」は、現行の終身雇用を前提とした働き方を、硬直的で、多様で柔軟な働き方ができるよう改革し、世界の競争に勝てるレベルに企業の生産性を上げようというものです(平成30年6月29日成立)。中味は、第一に、時間外の上限を原則1ヶ月45時間、1年360時間(時間外のみ)、臨時的な特別の事情がある場合でも、年720時間(時間外のみ)以内と定めました。いずれも、?複数月平均80時間内(休日労働含む)、?月100時間未満(休日労働含む)、?1ヶ月45時間(時間外のみ)を超えるのは年6回までの規制がかかり、罰則付きで長時間労働の是正を図っています。第二に、正規、非正規にかかわらず、同じ仕事なら同じ給与をもらい、好きな時に好きな時間だけ働ける制度改定が可能になります。働く時間を柔軟に設定し、働きやすくし、処遇についても非正規社員との均衡・均等処遇の考え方を採用するものです。もう一つが、脱時間給を意味する「高度プロフェッショナル」制度です。1,075万円以上の高給の社員で、特定の専門職については一定の条件の下に、労働時間規制の一切から除外する制度です。こうして、労働力不足を改善し、国民生活も経済も豊かになると言う趣旨です。
 一見、素晴らしい改革ですが、中小企業経営にはハードルが高いものが多いのです。
 今回の改革は施行年度がバラバラなので年度順にご紹介します。
(1)注目は2019年4月1日から適用される,年休を5日間取得させる義務です。これまでは自由取得が中心で取得率が低いので罰則付きで取得させる義務を会社に課しました。対象者は10日以上付与される者。会社は人手不足の中、やり繰りし社員に年休を取らせなければなりません。また、「高度プロフェッショナル」制度。現状では大企業ですら採用予定の企業はほとんどありません。ただ、その対象業務と給与金額は省令で決まるので中小企業に無関係とは言えません。
(2)次に、2020年度からの適用です。罰則付きで長時間労働が是正されるのは歓迎すべきことです。ただ、建設、ドライバー、医師等適用除外があることや複数月平均80時間以内や単月100時間未満等の限度が適切とは言えません。ほぼ過労死時間と言われているからです。
(3)遅れて2021年度から適用となるのが、公正な待遇の確保。生活保障や人権の観点からも必要ですが、付加価値の小さい中小企業にとって、「同一労働同一賃金」は死活問題です。既に、最高裁判例も出ており、今後、非正規の処遇を正規のどの程度にするかは大きなテーマです。厚労省のガイドラインも予想されています。
(4)2023 年度から、月60時間を超える時間外労働の割増率50%以上の適用です。現実は厳しい。労働集約型の多い中小企業は人件費の安い非正規の社員を戦力として活用しています。新制度が徹底されるようになればコストアップが必然になります。
 ますます生産性向上、経営改善が求められるでしょう。