会報誌(DDKだより)

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2018年06月発行 第289号 DDKだより

人事労務相談:「裁量労働」なら残業代を支払わなくていい?

Q.個々の能率や仕事ぶりで大きな差が出る事務労働を裁量労働とみなせば、残業代を支払わなくてよいものでしょうか。

今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁

A.労働の成果が必ずしも時間の長さに比例せず、業務の手段、方法、時間配分等を社員に任せる業務のことを裁量労働と称しています。この場合、通常通り、所定時間を超えて働くと、時間外になるとすれば、能率の良くない社員が優遇され(残業代稼ぎ)不公平ではないかという考え方がご質問の背景にあります。
 裁量労働は、業務遂行にあたり、ほとんど個人やチームで仕事をすすめ、逐一上司の指示命令があるわけではありません。法的に、専門型と企画業務型に区別されています。
 専門業務型の裁量労働は、特定の専門知識、技術を要する研究開発や公認会計士等の国が指定する業務が対象で、みなし時間の採用には労使協定と届け出が必要です(労基法第38条の3)。
 他方、企画業務型の裁量労働は、当初、会社の本社機能を想定した企画、立案、調査、分析の業務に従事する人が対象になっていましたが、その後、改正により、本社に限らず事業運営上の重要な決定が行われる事業場の業務にまで拡大しました(労基法第38条の4)。具体的には、(1)会社レベルの運営に関すること、(2)企画、立案、調査、分析、(3)業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があることが客観的に明らかなこと、(4)企画・立案・調査・分析という相互に関連し合う作業をいつ、どのように行うかについて広範な裁量がみとめられていることの4つすべてに該当する必要があります。そのため、みなし時間を採用するには厳格に対象者の同意を要件とする労使委員会の議決と労働基準監督署への届け出が必要です。こうして、裁量労働では、みなし労働時間制を採用できます。勤務時間は、所定の8時間働いたとみなしてもよいし、通常は10時間程度働いているとみなすこともできます。後者なら、2時間分の時間外手当が発生します。
 ご質問の事務労働とは、前の4要件に該当する企画裁量型の業務を指しています。従って、明らかな単純労働に従事する人は対象にはなりません。また、適用の対象になったとしても時間外手当が不要ということではありません。みなし時間は労使委員会での力関係によりますが、日常的に時間外が慢性化しているのに労使委員会の議決で8時間のみなしを採用すれば残業代ゼロとなります。実態に合わせ、10時間のみなしを議決すれば2時間分の時間外手当がつくことになります。まさに諸刃です。
 ご質問の事務労働の時間外削減の方法としては、管理職には管理職手当、法の裁量労働に合致する社員はその適用を、その他については固定残業手当等を工夫することで対応することになります。
 不正データにより頓挫した裁量労働制の拡大は、確かに長時間労働の危険性をはらんでいます。「裁量労働」の採用は慎重に検討しましょう。