会報誌(DDKだより)

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2015年08月発行 第255号 DDKだより

人事労務相談:一方的配転の是非

Q.当社の業務は営業と内勤の事務しかありません。営業のB社員は営業成績があがらず、上司の指導の効果も見られません。お客さんからのクレームも多いので、内勤に配転しようと思っています。配転は過去にもあります。留意する点がありましたらご教示下さい。

今月の相談員
経営コンサルタント
社会保険労務士 石田 仁

A.普通の会社でよく見かける配転です。場所的移転を伴う転勤よりは本人に対する影響の度合いが少ないと言えます。配転は企業経営上の判断で機動的に行い得るものとは言え、社員にとって働く「場所」と「業務」は労働契約上の重要な明示条件(労基第15条)ですから、変更の場合は、それなりに、根拠は必要でしょう。労働契約または就業規則上に配転があり得るとの規定を設けておけば、会社の権利濫用の問題はあっても争いは減ると思います(労契第7、12条)。
 今回は、B社員との労働契約内容が「営業職以外はさせない」との趣旨であれば、事務職への一方的配転は権利の濫用として労働契約違反となる可能性があります(労契第3条5項)。変更は、本人の同意を得るべきです。しかし、本事例の場合、契約書の文面には、「営業職以外させない」との職種限定条項は特に設けていませんでした。他の営業社員も皆同様です。ただ、「営業職」への変更が職種限定になるかどうかは争いがあります。本事例は配転について、労働契約や就業規則にも明文の規定がありません。
 明文がない場合、全体としての契約の趣旨、職場慣行を踏まえ、配転を行う業務上の必要性が高く、B社員への不当な動機・目的もなく、不利益もそれほどない場合には、本人の同意がなくても配転は経営の裁量の範囲と考えることができるでしょう(最2小判昭61.7.14)。判決は「転勤」の例です。業務上の必要性につき、「余人を持って容易に替えがたいといった高度の必要性に限定することなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、従業員の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化」等、ひろく肯定しています。
 本事例の場合は、以上の諸点に留意し、「労働力の適正配置」、「従業員の能力開発」等を理由に社員Bに配転命令を出すことは可能でしょう。今後は、就業規則に「会社は、業務上必要がある場合は、社員の就業する場所又は従事する業務の変更を命ずることがある」との規定を追加して下さい。