会報誌(DDKだより)

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2014年07月発行 第242号 DDKだより

巻頭言:成長戦略がもたらすもの


富塚 孝

5月27日に開催されたDDK総会記念講演で、浜矩子同志社大学教授は安倍政権の経済政策に対して「アホノミクス」を超えて「ドアホミクス」とまでの批判を展開した。格差社会を深刻なものにしてきた民主党政権から安倍政権までの日本社会の変化をみると、「壊れたホットプレート」になぞらえた浜教授の話に同感を覚えた方も多かったのではないだろうか。
 ワールドカップが開催されているブラジル社会の、貧富の格差を背景とする開催反対のデモが暴動にまで発展する報道にはおどろいた。日本では少子高齢化と過疎化、低所得者の増大という形で格差が表れ始めている。日本も所得再分配機能が変わり始めて、憲法が定める「健康で文化的な生活」を維持できなくなるとブラジルのようにスラム街が出現することになりかねない。
 日本経済の再建をめざすという「アベノミクス」の第三の矢である経済成長戦略、いわゆる骨太の方針の主流となる素案の一部が6月19日に発表された。それは「軍需産業育成」である。戦争は最大の消費であり、生産される武器・弾薬は人間の命と暮らしを破壊する。経済は人間の暮らしをより良いものにするのが当然なのに、それと正反対の方向をとろうとしているのだ。武器・弾薬を輸出して利益をあげるために生産されたものを消費する。それは戦争が起きることを期待することにつながる。第一次、第二次世界大戦のような大規模な戦争にはならないものの、今もイラクやアフガニスタン、アフリカで戦火が途絶えることがない。そこへ武器・弾薬を売り込む「死の商人」になることをだれが望むだろうか。中小企業は、その技術を武器・弾薬の生産に使うことを願わない経営であることを信じる。
 安倍政権は、軍需産業を経済発展の柱に据えて、日本の優秀な技術を武器の製造に使おうとしている。日本の大企業とそれを支えてきた中小企業群の技術は最先端の武器を生産する技術を持っている。戦後、日本は軍隊を持たず、国家間の紛争を解決する手段としての交戦権を否定する憲法を世界に先駆けて定めた。このおかげで世界第二位の経済大国になった。そして今の豊かな生活がある。
 集団的自衛権の行使を憲法解釈で行っていいのか、憲法を変えるべきどうか、日本の国としてのありかたを全国民的に議論する時だ。