会報誌(DDKだより)

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1998年08月発行 第51号 DDKだより

巻頭言:銀行のモラルハザード

参与  田口 良一       
     祝経営研究所次長
     最近の主な論文
     「借入金の金利交渉を見直そう」
     (「企業実務」1998年2月号)
     「『貸し渋り』はなぜ起きたか」
     (「世界」1998年5月号)

 


 旧住専会社7社の債権回収を進めている住宅金融債権管理機構は、先ごろ、住友銀行を相手どって損害賠償を求める訴訟を起こしました。その後さらに、預金保険機構も住管機構を支援するため、この訴訟に補助参加しました。
 新聞報道では、旧住専2社に紹介した3件、48億円余とされていますが、住管機構の中坊社長(元日本弁護士会連合会会長)の後日の説明によると、住友との訴訟は氷山の一角でしかありません。
 銀行が「融資媒介契約」を利用して、自分では貸すことがはばかられる案件や、自行貸付金の肩代わりを住専に押しつけたのですが、こうした違法性の濃い案件が11銀行134件も認められ、そのうち住友銀行1行だけで72件もあるというのです。
 これらのこげつき債権の処理をめぐって、住友銀行とはヒアリングをくりかえしたけれども、住友側が責任を拒否したため今回の訴訟になったとのことです。
 この事件自体は、国民負担6,850億円を投入した住専問題の後始末であり、古い事件ではありますが、その持っている意味はすぐれて現在的です。
 銀行は、連帯して信用秩序(決済システム)を守る責任を負っている社会の公器です。従ってそれにふさわしい企業倫理が求められているのです。世界の基準(資本主義世界のルール)に照らせば明白な違法行為なのに、日本国内にそれを取締まる法律(貸し手責任法)が欠如していることに便乗して、法律に抵触しなければ何をやってもかまわないという日本の銀行業界全体の堕落が裁かれているのです。
 この裁判の帰趨は現在進行中のブリッジバンク方式による銀行整理(救済)のモラルハザード性をもあぶり出さずにおきません。同時にこの裁判が勝利するならば、貸し手責任法なしの日本版金融ビッグバンが、銀行経営者堕落の歯止めをはずし、消費者と中小企業が受ける甚大な災厄の危険を知らせる警鐘となるものです。
 ※モラルハザード……倫理感の欠如