会報誌(DDKだより)

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2010年05月発行 第192号 DDKだより

巻頭言:「もしドラ」から入札制度を考える



富塚 孝

経営学の神様と言われているドラッカーがブームである。都立高校野球部の女子マネージャーが何かの勘違いでドラッカーの「マネジメント(エッセンシャル版)」を読んで、野球部の強化に活かして甲子園を目指すという小説がベストセラーになっている。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーを読んだら」という小説がビジネス本のベストセラーだそうだ。略して「もしドラ」と言う。
経営学と経済学とは違うものだという程度の知識とドラッカーという名前を知ってはいたので「もしドラ」ブームに刺激されて「マネジメント(エッセンシャル版)」を読み始めた。ドラッカーが語る経営学の言葉はわかるようで、なかなか難しい。ひとつひとつのメッセージを自らの経営姿勢や考え方に照らしてみるとドキッとする言葉が語られている。 
エッセンシャル版から引用してみよう。
「顧客とは誰かとの問いこそ、企業の使命を定義するうえで最も重要な問いである」とある。わが社の顧客とは? その答えを正しく導き出せているだろうかと考え込んでしまった。
わが社は創業から40年を迎えようとしている建設会社と工務店の二つの面を持っている小企業である。お客さまからの紹介や設計事務所からの仕事と保育園や医療機関の仕事もいただいてきた。十数年前まではそういうお得意さんから指名をいただいて、受注につないできたが、最近は個人住宅以外ほとんどが入札になってしまった。保育園などは行政から助成金を受けるので入札にすることが原則になっている。一番安い価格で札を入れた業者が仕事を請け負う。それも設計事務所と発注者と行政が定めた予定価格を二割、三割と安くして入札しなければ落札できない。激しい競争の結果は品質に影響を与え、落札した企業体力を奪い、職人の手間賃を限界まで切り下げる。その繰り返しが建設業者を淘汰へと追い込む。今、それが進行している。入札制度のもとでの「顧客とは誰か」をどのように考えればよいのだろうか。
2005年に他界されたドラッカー先生は日本にも来たことがあるのだが、建設業の入札制度をどう解明するだろうか。