会報誌(DDKだより)

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1998年03月発行 第46号 DDKだより

巻頭言:30兆円で貸し渋りは変わらない

参与  田口 良一       
     祝経営研究所次長
     最近の主な論文
     「昔サラ金、いま国金」
     (「別冊宝島」249号)
     「『最低資本金』1千万円の無明」
     (「世界」1996年5月号)

 


 ①全国銀行協会の岸会長(東京三菱銀行頭取)は、2月17日の記者会見で、公的資金注入について、全銀協会長としては歓迎しながら、東京三菱頭取としては「来期以降(高配当などが)経費の負担になるのは、できれば避けたい」と言明しました。(日経2月18日)。
 ②これには少し解説が必要です。東京三菱は、株価も銀行の中ではトップ。名実ともに日本のトップバンクです。政府・自民党は、17兆円の公的支援のために、「大手の優良銀行に資本を注入すれば、ほかの(優良でない)銀行も対象にしやすい」ということで、東京三菱に対しても昨年12月頃から水面下で根回しをしてきたものです。
 東京三菱側は、一旦は応諾したと報じられたこともありましたが(1月14日付日経)、今回は「決めたわけではない」といいながらも公式に消極的見解を示したのですから、わかりにくい話です。
 ③東京三菱の本音は、自己資本比率8%以上という「早期是正措置」をクリアーするためには、自己資本比率の分子である自己資本を増やすのではなく、分母である総資産(貸付金が主体)を圧縮する方針だというのです。更に解説すれば、自己資本8%以上というのは、日本版ビックバンの決勝戦のスタートラインでしかなく、真のゴールはROE(株主資本利益率)を欧米銀行なみに引き上げることなのです。このゴールに到達できるのは大手(19行)でも数行だけだろうといわれています。
 ④この本音をかくした発言だったため、岸会見は一見矛盾しているように聞こえるだけです。優良顧客に絞り込む、資産スリム化競争(選別強化・貸し渋り競争)が、4月以降一段とはげしくなることを言外ににじませたものでした。
 この公的資金注入問題の結末は、自民党の意向を汲んで東京三菱以下すべての都市銀行が受け入れることになるでしょう。しかし、前述の決勝戦が変更されることはありません。
 日本版ビックバンはこれからが本番です。こうした巨大・強力な世界に雄飛する銀行の創出の道程が、すなわち中小企業を排除、淘汰する道程でもあるわけです。
 中小企業は、ネットワークを緊密にして地域、中小企業を大切にする金融機関を生み出す必要があります。更にはそれを義務づける法制化が求められています。