会報誌(DDKだより)

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2008年08月発行 第171号 DDKだより

巻頭言:塞翁が馬

河原 八洋


先日すごい人に会った。
「安西信男さん」と言って、障害者の在宅就業支援をしている『ワークスネット株式会社』の取締役部長をしている。歳は40代の方である。
この会社は、社員の4割に当る40人の障害者を雇用して、クレジットカードのデーター入力をしている。個人情報が詰まっている申込み内容を、細かく切り刻み、繋がらなくして在宅の障害者にネットで送る。同じデーターは2人に送られ、返って来た物を付き合わせて、入力ミスを見つける。情報を分解するのも、間違いを探すのも総てパソコン上でシステム化している。障害者とは登録制の請負契約をしているが、登録するに当たっては、何ヶ月かの教育トレーニングで適性を判断し、4段階のランクアップ試験によって、仕事を分けている。100に1つの間違いも無いというからすごい。親も諦めていた、寝たきりの重い障害の方にも、仕事をする意欲さえあれば、天井に液晶画面を取り付けて、指一本の操作で入力出来る様にした。
仕事の注文量は日によって変り、障害者のコンディションにも波がある。パソコンもトラブルを起こし納期に支障をきたす。我々はその様に考えて成り立たないと思ってしまうが、これをバックアップ体制と、システム化によって克服して来た。
安さを誇る海外勢とも互角に戦い、クオリティーの面で信頼が厚い。
良くここまで作り上げたものだと感心していたら、これには訳があった。
安西さんは学校を卒業後、富士通でシステムエンジニアをしていた。勤務は月200時間を超す残業続き、ついには脊柱を痛めてしまった。8年前に医者から「車椅子生活を覚悟してくれ」と言われ、リハビリのため通い始めた福祉施設で、同僚にパソコンを教えたのが、このビジネスのきっかけになった。障害を持った人でも十分出来た。幸い今では車椅子が不要になったが、富士通を退職してこの会社を立ち上げた。昨年、当時の安倍首相に昼食会に招かれ、この事業を官邸で報告して、お褒めを頂いたそうだ。
人生、何が幸いするか判らないが、迷う事無く、今出来ることに全力で当る事が一番である。
『今できることを一つずつ』をサブテーマに、9月19・20日。明治学院大学で開かれる中小企業家同友会全国協議会の「障害者問題全国交流会」では、「安西信男さん」からこの取り組みが詳しく聞ける。(第5分科会)