会報誌(DDKだより)

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2002年07月発行 第98号 DDKだより

巻頭言:“住基ネット”は動き出すか

石田 仁       

 

 「野党4党が住基ネット8月実施見送りの法案を提出」という記事が目に飛び込んだ(6月14日付、日経)。わずか数行の扱いである。恥ずかしいことに私は「住基ネット」が何を意味するのか分からなかった。
 どうやら国民全体に11ケタの住民票コード(番号)を割り当て、住民票記載の氏名など個人情報をデジタル化して一元管理する住民基本台帳ネットワークシステムの事を指すらしい。住民は居住地以外でも住民票の交付を受けられるからより便利になる。従ってこのシステムの目的は、行政サービスにおける本人確認事務をスピーディーに行うことにあると言われている。しかし、一度個人情報が提供されるとその濫用が常に問題になる。だから、念には念を入れて、住基ネット法案の成立過程では個人情報の保護を法的に整備することが条件になっていた(当時の小渕首相発言)。
 住基ネット法案は1999年8月に成立。今年の8月5日から実施の運びだが、その前提となる個人情報保護法は今国会では廃案の見通しだ。マスコミや日弁連の批判もさることながら、防衛庁が情報公開を請求した人の所属団体までも調査し、リスト化した事実が発覚したからだ。これほど容易に無関係な個人データが捕捉されてしまうなら、住基ネットが氏名等の6情報に限定利用されるというのはまるっきり信憑性がない。やがて、納税者番号、運転免許番号、金融機関の顧客番号等も一元化されていけば職業、収入、成績、交通違反、病歴さえも把握されてしまう。まさにプライバシーの侵害であろう。
 知る権利は表現の自由(憲法21条)に含まれる権利と言われているものであり、狭義には政府の持っている情報を国民が知ることが出来る権利と考えられる。これを「保障」する情報公開法を蹂躙したのが防衛庁である。住基ネットを信用しろと言うには無理がある。
 効率優先より「知られたくない自由」をもち続けた方が安心して暮らせるであろう。