会報誌(DDKだより)

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1997年07月発行 第38号 DDKだより

巻頭言:経営のプロフェッショナルは何処へ

専務理事  石田 仁  
 



 『石田さん、私、今度、馘になりました』とS社長がつぶやいた。
 S社長とは一年前、日経ベンチャー誌を通じて知りあった。一部上場の化学会社の役員から子会社社長へ転出。生来の負けん気から業界有数の高収益会社に発展させ、その功績は親会社も認めていた。
 4年前、子会社はぬるま湯体質にどっぷり浸かっていた。彼の改革が始まった。毎週欠かさず発行される「社長メッセージ」。社長の一週間が日記風に綴られた社員への熱いメッセージである。年度毎に製本され社員並びに親会社にも配布される。
 毎週木曜日には定例の朝礼が開かれ、メッセージが読まれ、全国の支店からは誰かが交替で本社に集う。情報の交流がにぎやかに行われた。
 彼の辞書には長期は存在しない。どんな計画も4か月以内でなければゴーサインが出ない。スピードそしてチャレンジが真骨頂。今、まさにぬるま湯体質が一掃され、社内が覚醒し始めた矢先の更迭であった。
 企業の論理は非情。腰掛け社長は欲しいが、本物の経営のプロは要らない。親会社の人事の硬直を招くからだ。有能なS社長もあっけなく幕を閉じざるを得なかった。
 大企業では当然のことだと首肯することは簡単である。しかし、新しい環境変化の中で経営者と組織、個人と組織の関係が見直されてもいいはずだ。
 組織と個人を直接的に統合する従来の組織人モデルは個人の業績の伸長や貢献が組織にがっちり受けとめられ、その枠の中で個人の欲求や名誉が充たされる。だが、有能なプロフェッショナルな経営者や個人は組織に直接統合されるよりも、仕事を通じて、自己の高次な欲求を充たし、間接的に組織に貢献することに働き甲斐を見い出すに違いない。
 いつまでも従来型の組織人モデルに固執していては、日本型経営は早晩行き詰まる。
「石田さん、今度、××を始めるよ」というS社長の元気な声を早く聞きたいものだ。


[専務理事 ご紹介]  
明治大学大学院法学研究科修了(専攻 労働法) 
経営コンサルタント・社会保険労務士 
(株)第一経理・経営相談事業部に勤務 
平成9年5月より現職 
東京中小企業家同友会理事 
同 専門家グループ部会幹事長 
同 労働職場環境委員会副委員長 
中小企業大学校講師 
東京都労働経済局 労働講座講師 
著書『就業規則で会社がかわる』(労働旬報社)ほか論文多数