清成委員会最終報告の夢と現実

  参与  田口 良一       
     祝経営研究所次長
     最近の主な論文
     「借入金の金利交渉を見直そう」
     (「企業実務」1998年2月号)
     「『貸し渋り』はなぜ起きたか」
     (「世界」1998年」5月号)

 


@中小企業基本法の全面改正へ
 中小企業庁長官の私的懇談会である中小企業政策研究会(座長清成法政大学総長)はこの5月、最終報告書を提出した。来年の中小企業基本法の全面改正作業の骨子となるといわれる重要な文書である。
 なぜいま全面改正か、法の発効からすでに36年、中小企業を巡る環境が大きく変化し、それに応じて中小企業観と政策理念も変化したためと説明されている。
 現行中小企業基本法は、過小過多、過当競争、非効率、非近代性等の二重構造的格差の是正を政策理念として出発したが、欧米にキャッチアップした今日では、スケールメリットの効かない領域が拡がり、大小間の格差よりも中小企業内の異質多元性から生じる格差が著しいという。

A新しい中小企業政策のキーワード
 報告では、新しい中小企業像とは、現在の経済閉塞状態を打破し、新産業創出の担い手となり、自らリスクをおかし、柔軟かつスピーディな、創造性に富んだ、小まわりが利く、自立した存在、と規定される。従って、「経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最低限」の視点で、既存の政策の全面的見直しが不可避となる。

B実効性ない金融政策
 きらびやかで多弁な総論も、各論になるとがらりと様相が変り、99%を占める非ベンチャー型企業にとっては、容易ならざる困難の序曲であることがはっきりする。
 例えば金融政策。「事業資金の確保は中小企業の最大の経営課題であり、中小企業政策の中核である」と認めながら、民間金融機関にとってはリスクが大きいから「公的金融により政府が関与する意義は大きい」と、結局中小企業金融からの撤退論でしかない。
 日本の金融機関が歴史的に問われているものは、地域にどう責任をはたすのかという課題であり、そのために不可欠とされる日本版地域再投資法制定の論議のはずである。
 また、銀行の優越的地位濫用を防止するには、独禁法の厳正な適用が不可欠なのに、独禁法が厳格化する方向は商工組合によるカルテル廃止である。
 今回の報告が描く理想の世界は、永遠にはるかな彼岸の浄土という感をいなむことはできない。中小企業にとってはこれからも続く苦難の向い風である。