コア・コンピタンスについて

  専務理事  石田 仁       
     経営コンサルタント・社会保険労務士
     東京中小企業家同友会理事
     同 専門家グループ部会幹事長
     東京都労働経済局 労働講座講師
     著書『就業規則で会社がかわる』
     (労働旬報社)ほか論文多数


 先般、東京商工会議所産業活性化特別委員会で決議された 「日本の経営システムの新たな構築に向けて」(7月15日)の提言に、 コア・コンピタンスという文言が目にとまった。
 要旨は、新たな環境への対応策として、企業は様々な方策を試行するが、 先行き不透明な現在では全ての企業に共通する万能薬はない。 個別企業の経営方針、経営資源、体質によって左右される。 だから、肝心なことは自らの企業に適した施策をタイムリーに導入する 経営者の選択眼であるという。その選択眼を支えるものが 企業のコア・コンピタンスである。
 コア・コンピタンス経営(ゲーリー・ハメル、C・K・プラハード著、 日経新聞社刊)によると、その定義は『顧客に対して、 他社にはまねのできない自社ならではの価値を提供する企業の中核的力』 を意味している。
 言い換えれば、自社のひとつの重要な強みのことである。
 さらに提言はコア・コンピタンスの視点で3つの経営戦略を提起する。 自社の「売り物は何か」、「誰に売るのか」の区分から、 1)割安路線(低価格路線)、2)飛び切り路線(差別化路線)、 3)深掘り路線(特化路線)が柱だという。
 もっともこれらの戦略を固定的なものと考えているわけではない。 企業の特性により複合的に立案する必要があるとするのは当然のことである。
 考えるに、T社は医療用のステンレスキャビネットを30数年間も 脈々と製造している。また、K社も40年近くカッターを作り続けている。 東商の路線で考えると、2)ないしは3)にあたるだろうか。 T社のコア・コンピタンスは多品種少量、高付加価値にあるが、 市場は構造不況業界。K社のそれは多品種少量、そして国内では 誰も真似のできない深掘り路線であるが、海外での価格競争が激化している。 だから、悩みは深い。
 問題は商品、技術だけにあるとは限らない。 むしろ、コア・コンピタンスは最終的に経営者、組織、 そして個々の社員のスキル、ノウハウにまで浸透してこそ 企業の力になり得るに違いない。