金融・経営相談
銀行の優越的地位の濫用
 
公正取引委員会(公取委)が、M銀行に対し、金利スワップ商品販売に関し「排除勧告」を出しましたが、「公取委と排除勧告」、「優越的地位の濫用」、「金利スワップ商品」について解説してください。
今月の相談員
中小企業診断士
中小企業組合士
伊藤 勝
 
昨年12月、「公正取引委員会(公取委)は、M銀行に対し、資金繰りという中小企業の生命線を握る優越的な地位を濫用し、取引を迫る悪質な手口を問題視。同行に限らず金融界全体に警鐘をならした」と報道されました。  
 公取委は、「自己の取引上の地位が優越していることを利用し、融資を受けなければ立ち行かない企業に対し、断りきれない時期や場面で、金利スワップ商品を購入させている」と断じ、独占禁止法違反(不公正な取引方法/優越的地位の濫用)で、こうした行為をやめるよう排除勧告しました。  
 問題になった金利スワップ(交換)とは、通常の融資と連動して融資の変動金利を固定金利に交換するよう設定した金融商品で、M銀行が押し付け販売した「金利スワップ商品」は、借り手に不利益をもたらす内容でもあります
(注1)
 銀行本部が金融商品の販売強化を打ち出し、各支店の行員にノルマを課し、「この商品購入が融資の条件」とする文書を示すなどして購入を迫ったことから、公取委は、担当者個人ではなく銀行としての違反行為と認定しました。  
 以前から、公取委による「問題となる行為の例示(01年7月ガイドライン)」には、取引上優越した地位にある金融機関が、要請に応じなければ今後の融資等に不利な取扱いをする旨を示唆すること等によって各種の強要
(注2)を行うのは、不公正な取引に該当するとしていました。  
 不良債権処理が進む中で起こった「貸し渋り」「貸し剥がし」「金利の強引な引き上げ」の時にも銀行の優越的地位の濫用は水面下で多発していましたが、漸くそれが表面化しました。  
 大手銀行に排除勧告が出されるのは、1957年以来半世紀ぶり。M銀行は、金利スワップ商品の押し付け販売についての公取委の勧告を受け入れるとしていますが、公取委は事態の是正勧告を命令に変える審決を、近々に出すとみられています。M銀行がどのような是正措置と被害者の救済をおこなうかが注目されます。
 
(注1) 借り手は、融資にかかわる支払金利に加え、金利スワップに伴う固定金利と変動金利の差額を支払いつづけなければならず、金利が上昇する時には金利負担を回避できるが、低金利が長期に続く今のような時期には、借り手に重く負担がのしかかることになる。
(注2)問題となる行為 ①契約に定めた変動幅を超えての金利の引き上げ ②契約に定めた返済期限が到来する前の返済 ③過剰な追加担保の差し入れ ④無理な短期の借入 ⑤債権保全に必要な限度を超えての定期預金の創設・増額 ⑥担保として提供していない預金の解約拒絶